河川氾濫による浸水の広がりを予測して、防災に役立てる
近年、台風や豪雨の激甚化によって、全国各地で毎年のように深刻な水害が発生しています。重大な被害をもたらす原因の一つが河川氾濫であり、被害をどう最小化するかは現在、自治体や企業において重要な課題となっています。CTCは、シミュレーション技術によってこの課題解決に貢献すべく、河川氾濫による浸水がどのように広がるかを高い精度で予測し、その結果を様々な形で活用できるような仕組みを構築することを目指しています。
CTCが行った河川氾濫の解析事例の一つとして、2015年の関東・東北豪雨によって氾濫した鬼怒川のケースがあります。これは、鬼怒川左岸21k(茨城県常総市)における堤防が決壊するなどして広範囲に浸水したケースですが、その浸水の広がりをシミュレーション技術で再現すべく、計算を実施しました。「非線形長波理論」に基づく方程式を用い、盛り土や道路などの微地形も考慮した5.0mメッシュで、10km×24kmほどの領域について計算を行ったところ、浸水域および最大浸水深について、被害の状況を高い精度で再現することができました。堤防決壊から何時間後にどこでどのくらい浸水が進んでいたか、といったことも振り返って知ることが可能になりました。

同様の解析は、全国各地の河川においても可能です。そして一つの河川に対して、条件(雨量などの気象条件や、堤防決壊などの被害状況)を変えてシミュレーションを行えば、様々なケースについて浸水がどう広がるかを予測でき、そうした情報は、ハザードマップの作成や、避難場所や避難方法の検討など、地域の水害対策に多様な形で活用できます。
また、このようなシミュレーションを高い精度で行う場合、計算時間が長くなることが問題になりがちですが、CTCでは、GPUを搭載した大型計算機を用いることで短時間による計算を可能にしています。この点も実用上の大きな利点になるはずです。
シミュレーションとAIの技術で津波被害の最小化を目指す
一方、水害として国内で甚大な被害を引き起こしてきた津波の対策においても、CTCは、シミュレーション技術を活用した取り組みを進めています。これは、防災科学技術研究所と共同で行っている取り組みで、東北地方から関東地方にかけての沖合に敷設された「日本海溝海底地震津波観測網(S-net)」のデータを活用して、津波の即時予測システムを構築しようというものです。S-netは、海底ケーブルに沿って150ヵ所に設置された地震計及び海底水圧計によって、地震発生時に水圧の変化をリアルタイムで観測します。構築している予測システムでは、S-netのデータとシミュレーション技術を組み合わせることで、どのような津波がどう陸域に伝播し、浸水域がどう広がるかを予測できるようにすることを目指しています。
まず、地震によってどんな規模の津波が発生して、それが陸域にどう伝播するかのシミュレーションは、「波源断層モデル」によって計算できます。CTCはそのモデルを利用して、防災科研が想定した4,000ほどの異なる地震のケースについて計算を実施。得られたデータを「津波シナリオバンク」としてデータベース化しました。
そして、実際の地震発生時には、S-netによるリアルタイムデータを津波シナリオバンクのデータベースと照らし合わせ、その中から最も近いシナリオを選び出すことで、津波が陸域にどう伝播していくかを予測するのです。その際のマッチングには、ニューラルネットワーク回帰という機械学習の手法が利用されており、この手法の構築にも、CTCの技術が大きく貢献しています。S-netは、現状より最大20分ほど早く津波を検知できるとされているため、この予測システムによって、津波発生時の避難勧告などがより迅速に発出できるようになることが期待されます。
激甚化する自然災害を少しでも軽減するためには、今後、高度なシミュレーション技術がこれまで以上に必須です。CTCは、その技術において世界をリードする存在となるべく、さらなる進化を目指します。