イベント・レポート

CTC Forum 2018 講演

より低コストに経済価値を生み出せる時代
統計学がカタチを変えてそれを支えている

更新

データ駆動型社会を支えるデータ・サイエンスは、統計の新しいカタチ。その手法は、機械学習を始めとする人工知能(AI)にも埋め込まれている

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開催日
主催
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
講演
独立行政法人統計センター

人間をもっと賢く。統計学の考え方を役立てたい

独立行政法人統計センター 理事長 椿 広計氏

独立行政法人統計センター 理事長 椿 広計氏

“古典統計家”を自認する私は、これまで製造業の品質管理や公的統計など、さまざまな領域で統計の応用に関わる仕事をしてきました。

アメリカ連邦政府の定義を借りれば、統計家とは「統計的手法を用いてデータを収集・分析し、ビジネスエンジニアリングや科学分野などの実世界の問題についてのソリューション提供を支援する人」のこと。データの分析だけではなく、ミクロデータの設計と収集、データのモデル化、仮説検証などの解釈、ソリューション実装手段の発案と評価なども統計家に求められる主な役割となります。

さて、日本政府の「未来投資戦略」に取り上げられたこともあり、現在「データ駆動型社会」に対する世の中の関心が非常に高まっています。

それに伴い、統計学に求められる役割も変化しています。以前は科学的プロセスを保証することが目的でしたが、現在は「価値の実現を目的とするデータ取得」、「実際の価値がある情報への加工と通信」、「目的価値を創出させるオペレーションへのつなぎ」といった一連のプロセスを支えることを求められ、「データ・サイエンス」と呼ばれるようになっています。データ駆動型社会を支えるデータ・サイエンスは統計の新しいカタチなのです。

実際、われわれ統計センターは中央省庁の一翼を担い、データ駆動型社会の円滑な推進に欠かせないデータ・サイエンス・サービスを提供しています。オープンデータの分野では統計データ利活用センターを設置。国の統計データを民間企業などが容易に利用できるようにAPIも公開しています。

このデータ駆動型社会の1つの意味は、経済価値を生み出すためのコストが極めて低くなったことにあります。経済価値とは、「便益(メリット)-コスト(原価)」で算出できるわけですが、製造業のモノづくりが価値創出の中心だった時代は、コストの多くを原材料やエネルギーが占めていました。

一方、多くの価値がコトづくりから生まれる現在の主なコストはデータです。ICT技術の進展によってコストとなるデータの価格が大幅に下落し、現在は「限界費用ゼロ社会」や「チープデータ時代」とも呼ばれます。

同時にデータの経済的価値を可視化し、その予測に根拠を与えるのもまたデータ・サイエンスの重要な役割です。

例えば、欧米で投資判断に使われているシナリオプランニングという手法では、取りうる意思決定ごとの価値を統計的な手法で算出。その時点で最良の意思決定を行うことを支援します。

また、データ・サイエンスは、機械学習に代表される人工知能(AI)とも密接な関係があります。

「AIは統計に取って代わる画期的な予測理論である」と考える人もいるようですが、そんなことは決してありません。統計の世界で以前から行われてきたモデリングと機械学習は非常に似ており、AIは統計の数理的な側面が高度に進化したものともいえます。

AIの時代には回帰分析(予測などに使われる分析手法)そのものはあまり使われなくなると思いますが、それは回帰分析がどうでもよいものになったからではなく、回帰予測の機能がAIの中に強化されて埋め込まれているから。AIの実体は「統計的機械学習」と呼ばれるべきものであると私は考えています。

データ・サイエンス時代には人間はより賢くなるというのが私の信念。人間がAIを使いこなす賢さを備えるためにも、統計の考え方を役立てていきたいですね。

講演の様子

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