|特集|イノベーションが切り拓く、豊かな未来

尖った製品ほど"跳ねる"
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- 人工知能、IoT、クラウドコンピューティング※5のような新しい技術的なトレンドが次々に登場する中、阪根さんがイノベーションを考える上で特に注目されている技術は何でしょうか。また、これがあったからランドロイドができたという技術はありますか。
- 阪根
- ランドロイドの技術としては、人工知能、画像解析、ロボティクスが核となっています。そのいずれについても、昨今の急速な計算速度の向上がとても大きな力になっています。クラウドコンピューティングによって複数のコンピュータを連携できるようになったことにも助けられています。その一方で、現代の最先端の人工知能を用いても、持ち上げた瞬間に形状が変化する洗濯物を正しく認識させることは困難で、今なお、TシャツならTシャツ、ズボンならズボンと衣類を自動で認識して折りたためる機械を現実の形にしたのは当社だけです。その経験から、いくら私たちが高度な技術を手にしても、結局はそこに人間のアイデアが組み合わされなければ、イノベーションは生まれないと感じています。
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- イノベーションは、技術を生み出す難しさに加え、それを事業化することの難しさもあると思います。
- 阪根
- 生み出した技術をどうやって売っていくかは、技術開発と同じくらい難しいですね。特にランドロイドのように世の中に類似品が全くないものは事例があまりないため、売り方も手探りしながら進めるしかありません。ランドロイドが世に出るという状況は、食器洗い機が登場した時の状況と近いと思っていますが、食洗機は40年も前の話になるので、今の販路と比べることができません。結局は自らが売り方を考えていくしかなく、そこも含めてイノベーションと言えるのかもしれません。
- 澤登
- 私も同じく、新しい技術や発想によって生まれた製品の事業化はなかなか予測通りには進まないと経験から感じています。大きな企業の場合、既に持っているネットワークを活かしつつ、ビジネスとしてまずは小さく始めて、ユーザーの声を聞きながら少しずつ広げていく「リーン・スタートアップ」というアプローチ方法を取るように変わってきました。かつてのように、最初から巨額を投じて勝負したものの、出してみたら売れなかったといったケースは少なくなっています。また、YouTubeやSNSを利用した新しい売り方もどんどん打ち出されています。テレビ広告はせず、ITをフル活用してインタラクティブにビジネスを形成していける時代。環境の変化に即座に対応できる体制が重要になってきています。
- 阪根
- 売り方の変化の速さは本当にすごいですね。特にSNSの普及が大きいです。新しいものを作って売っていく時には、ユーザーに知ってもらう、興味を持つ、購買意欲を高める、購入する、というステップがありますが、最初の「どうやって知ってもらうか」が一番難しいんです。というのも、多数の人をターゲットにしなければならないからです。私たちは、カーボンシャフト、ナステント、ランドロイドを順に開発から製品化する中で、尖った製品ほどSNSで"跳ねる"ことがわかってきました。つまり、「えー!」と驚かれるようなテーマほど、お金をかけずとも情報が拡散されていくので、私たちにとってはすごくありがたい時代になったなと感じています。

澤登 寿
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
未来技術研究所 所長
1991年伊藤忠テクノソリューションズ入社。コンタクトセンターやデータウェアハウスシステムの担当や運輸、生活消費財、メディア業界向けのシステム営業の統括を経て、2017年4月、IT技術を活用した新規ビジネスの立ち上げを目指す「未来技術研究所」の所長に就任。
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