前回は3GPP SA5における次世代ネットワーク管理の仕様について解説しました。今回は、ネットワークサービスとリソースの統合的な管理・制御・最適化を担うMANO※1の機能について解説します。
1. NFVとMANO
5Gモバイルネットワーク時代に向けて、PNF※2として一体で提供されていたネットワーク機能のハードウェアとソフトウェアを分離し、汎用サーバの仮想化基盤上で実現するNFV※3の取り組みが活発になってきています。NFVの議論は、にETSI※4配下に設立されたISG※5にて、業界標準のアーキテクチャ仕様の策定が推進されています。
NFVアーキテクチャにおいて、オーケストレーション※6を担うのがMANOです。MANOは、3GPP Management Systemと連携し、NFVのみではなく、PNFを含めた統合的なオーケストレーションで、ネットワークサービスの迅速かつ柔軟な構築や、自動化、ポリシーに基づくネットワークの動的な最適化など、インテリジェントな運用管理を実現します。
また、5Gモバイルネットワークでは、IoT※7/M2M※8のように要件や特性が異なる様々なネットワークサービスの展開や運用高度化の実現のため、高度なネットワークの制御が必要です。MANOはその運用の中心的な役割を期待されています。
3GPP Management SystemとETSI NFV-MANOの連携については第4回で解説していますので、ご確認ください。
2. MANOの概要
第4回では、3GPPリリース14で規定されたTS28.500に記述されているManagement Architectureの概要を説明しました。第5回では、3GPPリリース15で規定されたNFV アーキテクチャにおけるNFV-MANOの役割について概説します。図1に示すように、NFV-MANOは、NFVO※9、VNFM※10、VIM※11から構成されます。
NFV-MANOと3GPP Management Systemを構成するNM※12、DM※13/EM※14、及び、VNF※15、NFVI※16の間には標準のインタフェースが規定され、マルチベンダーでNFVを管理可能な仕組みです。
NFV-MANOを説明する前に、接続先であるそれぞれの機能について、簡単に説明します。
- NFVI:ハードウェアコンポーネントとソフトウェアコンポーネントで構成され、VNFを展開するインフラストラクチャリソースを提供する。
NFVIの主な機能はETSI GS NFV-MAN 001 [3]で定義されている。 - VNF:NFVI上で動作する仮想化されたネットワーク機能群。
- EM/DM:VNFとPNFのFCAPS管理、及びライフサイクル管理機能。
なお、FCAPSとは障害管理(Fault)、構成管理(Configuration)、課金管理(Accounting)、性能管理(Performance)、機密管理(Security)をさし、ISO※17で定義されたOSI※18のネットワーク管理システムの設計に使用する共通フレームワークモデル。 - NM:OSS/BSSの機能を持ち、VNFを含んだモバイルネットワークを管理。また、モバイルネットワーク(IMS、EPCなど)のFCAPS管理機能、及び3GPPサービス(データサービス、音声サービスなど)をサポートし、モバイルネットワークライフサイクル管理をサポートする。
3. MANOの機能
NFV-MANOはNFVの運用管理において、もっとも重要な役割を持ちます。NFV-MANOは先述の通り、NFVO、VNFM、VIMの3つのコンポーネントから構成され、NFVIやVNF、また複数のVNFで構成されるネットワークサービスを統合的にオーケストレーションします。
NVFO、VNFM、VIMの3つのコンポーネントにより、VNFの起動やソフトウェア設定などを自動化し、新たなネットワークサービスの迅速な構築やサービス需要に応じた柔軟な設備変更、障害時の自動復旧などが可能になります。
MANOを構成する3つのコンポーネントについて簡単に説明します。
- NFVO:複数のVNFから構成されるネットワークサービスのライフサイクル管理(生成、管理、運用、削除など)、全体のリソース管理、NFVIのリソース要求の検証、及び許可を行い、システム全体の統合的な運用管理を行う。
- VNFM:VNFが必要とするリソース要件の管理、VNFのライフサイクルを管理する。また、NFVIとEM/DM間の設定、及びイベント報告を行う。
- VIM:NFVIのコンピューティング、ストレージ、及びネットワークリソースの制御や管理をする。ETSI NFVの実装においてはOpenStackがデファクトとなっている。
NFV-MANOアーキテクチャを適切かつ効果的に機能させるには、既存システムのオープンアプリケーションプログラムインターフェイス(API)と統合する必要があります。MANOレイヤーは標準のVNFのテンプレートを使用して、既存のNFVIリソースからプラットフォーム、またはエレメントを展開するための機能があります。
4. ネットワーク・スライスとMANO
第4回ではネットワーク・スライス管理のアーキテクチャに関して説明しました。ネットワーク・スライスとNFV-MANOの関係は図2のようになります。
5Gにおいて、ネットワーク・スライスされたNEの管理は重要となってきますが、その中でも、サービスの管理を行うにあたり、End-to-Endの管理も必要となってきます。End-to-Endの管理を行う機能をE2E Service Orchestratorと呼びます。
E2E Service Orchestratorでは、図3が示すようにMANOのオーケストレーション対象をNFVだけでなく、トランスポートやデータセンターSDN、更にはレガシー環境にも拡張しています。
E2E Service Orchestratorは、それらを個別に最適化するのではなく全体を最適化し、End-to-Endで統合的に管理・制御します。これにより図4のように複雑化、階層化されたネットワーク全体の統合的な管理・制御を行います。
5Gモバイルネットワークでは、複雑化、階層化されたネットワーク全体の管理を行うにあたり、管理の高度化が求められることになります。その高度化を行うにあたり、図5に示すようにネットワーク全体の把握を行うために、モバイルネットワークのデータ収集、ネットワーク全体の分析、ネットワーク最適化のための構成変更、適用を行います。この一連の流れは自動化していくことになります。この自動化については第6回以降に解説します。
- ※1 Management and Network Orchestration
- ※2 Physical Network Function:従来専用装置
- ※3 Network Functions Virtualisation
- ※4 European Telecommunications Standards Institute
- ※5 Industry Specification Group
- ※6 ネットワークサービスやリソースの統合的な管理・制御、最適化
- ※7 Internet of Things
- ※8 Machine to Machine
- ※9 NFV Orchestrator
- ※10 Virtual Network Function Manager
- ※11 Virtualised Infrastructure Manager
- ※12 Network Manager
- ※13 Domain Manager
- ※14 Element Manager
- ※15 Virtualised Network Function
- ※16 NFV Infrastructure
- ※17 International Organization for Standardization
- ※18 Open Systems Interconnection
次回
今回は5Gの管理機能であるMANOを中心に見てきました。次回はネットワークからみたMECの自動化について解説します。
著者紹介
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
情報通信第2本部 システム技術統括部
主任 伊藤 仁