コンサルティングから、SI、アウトソーシングまで、幅広いソリューション事業を展開する伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)。同社は、2015年を“既存の枠組みを超える年”と位置づけ、新たなIT領域への挑戦を積極的に推進。クラウドやビッグデータなど、注目を集める分野においてイノベーティブな技術研究を行う新組織の設置や他社との提携・協業をベースに、一歩進んだIT活用を支援している。
『日本企業の継続的な成長にはマインドセットの転換が不可欠』
─ 長年、企業のIT活用を支援してきた立場から、現在、日本企業が置かれた状況をどうみていますか。
菊地 : 多くの企業がマインドセットの転換を迫られていると感じます。2006年にクラウドという言葉が登場して以降、ビッグデータ、モバイル、ソーシャルといったデジタル技術が次々に生まれ、どう活用するかが企業の競争優位性を決定づけるようになりました。実際、欧米では、これらのITを活用し、従来にはなかった方法での事業展開やビジネスモデルの変革を実現し、成功をおさめる企業が増えています。
ここで重要なのが「この分野にITを使ったらどうなるか」というアイデアを持つことですが、長年、日本では「守りのIT」が中心であり、ITを使って攻めるという発想がまだ十分に醸成されていません。新しい価値を作りだすため、ITとどう向き合うべきか──。そこから見直すことが、日本の企業に求められているのです。
─ そのために、企業はどのような視点を持つべきなのでしょうか。
菊地 : まずは自社の成長戦略の柱を定め、目標を達成するには、どの技術を組み合わせて使うべきかを考えることが重要です。その際、オペレーションなどはアウトソースするなどして、ビジネスの成長に関わる根幹となる部分にいかにリソースを集中させるかを考える必要があるでしょう。
こうしたお客様の動きをサポートするため、攻めのIT活用のサービス開発・展開を積極的に進めています。
『新たな組織の設立にも着手 イノベーションの実現を支援』
─ 菊地社長は今年の年頭所感で「既存の枠組みを超える年にする」と表明され、今年度は中期経営計画も発表されました。具体的にどのような取り組みを進めてきたのですか。
菊地 : まず昨年末に設置した「イノベーション推進室」では、ロボットやウエアラブルコンピュータ、人工知能などの最先端技術を使って、どんなイノベーションを生み出せるかを検討し、検証に着手しています。
今年4月には、専門組織として「クラウドイノベーションセンター」を立ち上げました。最近注目のOpenStackやクラウドネイティブアプリケーションなど、オープンソースを基軸にした次世代クラウド技術の研究開発を行う組織です。クラウドネイティブアプリケーションについては経済産業省の補助事業として開発を進め、成果をオープンソースで開示しています。
─ 現在までに、どんな成果が生まれているのでしょうか。
菊地 : ビッグデータ分野では、アサヒビール様と共同で飲食店向けのデータ解析サービスに取り組んでいます。米Applied Predictive Technologies社のクラウド型予測分析ソフトウエアを使用し、メニュー変更やプロモーション施策が売り上げや利益、来店者数や注文に与える影響を測定、そこからビジネス改善の機会を特定するものです。アサヒビール様では外食企業の経営支援ツールとして活用するほか、CTCでも小売や消費財メーカー向けにデータ解析サービスを展開していく予定です。
クラウド分野でも新たな取り組みを進めています。その1つが、基幹システム特化型のIaaS分野で世界トップレベルの実績を持つ米Virtustream社との提携です。同社は、コンピューティングリソースの実使用量で従量課金を行い、リソース最適化を行う特許技術を保有しています。パフォーマンスSLAや高セキュリティ環境と組み合わせることで、多くの基幹系システムに採用されています。一般的に「クラウドは基幹系システムには不向き」という判断がされていますが、この状況を覆します。
さらにCTCでは現在、Virtustream社の技術を活用したIaaS上に、超高速分析を可能にする「SAP HANA」を含め、ERPの最新バージョンを搭載する自社プロジェクトを進めています。まずCTC自身がサービスを利用し、そこで得られた知見や技術をサービスにフィードバックすることで、お客様のビジネスに寄与することが狙いです。
『BPOの新サービスも提供開始 他社との協業サービスも開発』
─ 攻めのITを支援する準備が着々と進んでいますね。
菊地 : ただし、守りのITも疎かにはしていません。特に規模が大きな企業ほど、オペレーションを疎かにするリスクは大きく、悩まれているケースが多い。我々の基幹系特化型クラウドサービスなら、IT運用の質を向上させ、お客様の負担を軽減することができます。
今年7月、伊藤忠商事、ベルシステム24ホールディングスと、CRM・コンタクトセンタービジネスを中心としたBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)分野で業務提携を行いました。CTCのITと、ベルシステム24の運用ノウハウを組み合わせ、IT運用を支援していきます。こうしたアウトソーシングサービスもあわせて活用することで、マンパワーやコストにも余裕が生まれ、その差分を「攻めのIT」に向けることが可能になるはずです。
─ 今後、CTCでは、企業にどのような価値を提供していく考えでしょうか。
菊地 : 新しい技術を取り入れるには、リスクも伴います。時には想定外の問題が発生し、それを乗り越えなければならないケースもあるでしょう。その時に重要なのが、様々な技術を自在に組み合わせ、安定的に運用していく技術とノウハウです。CTCは長年、マルチベンダーとして様々なITを中立的に比較・選定し、開発から保守、データセンターの運用に至る全領域において「繋ぐ力」と「組み合わせる力」を生かしたサービスを提供してきました。
今後は、Virtustream社との提携に基づく基幹系特化型のクラウドサービスで守りのITの質を上げつつコストの効率化を目指します。一方で、リスクと成果を分かち合う成果報酬型のビジネスを考え、お客様と一緒に攻めのITを構築していきたいと考えています。CTCはこれまでの知見を全て提供し、攻めと守りの両面からお客様を支援します。
- ※ この記事は日経コンピュータ2015年10月1日号特別広報企画「攻めのIT経営」への提言から抜粋、再編集したものです。