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|特集|難しい時代にこそ求めたい、倫理という視点

|特集1|ニューノーマルの時代にCTCが果たすべき役割 The New Answer

社会的責任と利潤追求の中で企業の取り得る道筋

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具体的な事柄について伺います。まずは、ビジネス分野について、近年、SDGsやESG投資への認知が広がり、企業の社会的責任が問われる傾向がますます強まっています。そうした中で、企業はどのような意識を持つことが大切なのか、倫理学的にはどのように考えられますか。
児玉

ビジネスの倫理において基本となるのは、「ストックホルダーアプローチ」と「ステークホルダーアプローチ」の対立です。つまり、企業は利潤の追求によって株主(ストックホルダー)の利益を最大化することを第一に考えるべきとするのが前者の立場で、他方、商品を買う人や地域のコミュニティなども含めた利害関係者(ステークホルダー)全体のことを考えるべきだとするのが後者です。これまで企業は、コンプライアンスは意識しつつも、前者の姿勢でいるのが一般的でしたが、今はそうではありません。企業がかつてないほど大きな影響力を持つようになり、社会に対して積極的に良い行いをすることが求められるようになっています。すなわち、ステークホルダーアプローチの重要性が増しています。SDGsはその表れとも言えるでしょう。

また、そうした変化に伴い、株主の考え方も変わりつつあります。ESG投資と言われるように、社会的責任を果たしている企業に投資することが大きな流れとなっています。企業にとっても社会貢献をすることが長期的利益になり得るということです。しかし一方で、社会貢献度の極めて高い企業が本当に長く栄えることができるのかは不透明で、そのような中、企業はどう行動すべきかを考えていかなければなりません。こうしたことがビジネスにおける倫理的問題の一つとなります。

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そうした問題において、倫理学から導き出せるのはどのようなことなのでしょうか。

児玉

倫理学ができることの一つは、倫理理論に基づいて論点を整理し、どのような選択肢があるか、どのような行動を取り得るかを提示することです。その一方、もう少し踏み込んで、「こうするべきだ」という具体的な方向性を導き出して提示することを重視する研究者もいて、私はどちらかといえば後者の立場です。病院を例にあげると、患者、スタッフ、経営陣の利害はそれぞれに異なりますが、求められれば院内の規範を具体的にどうするべきかまでを倫理学的に考えて提案することが必要だと考えます。また、規範そのものではなく、規範を作る際に、どのように合意形成を行うべきかという手続きの部分について方向性を提示することも倫理学の範疇に入ってきます。何らかの判断をしたり決断を下したりする時には、その結論に至った経緯や根拠を明確にすること、すなわち「手続き的正義」が重要であり、倫理学は、その点を考える上でも役割を果たすのです。

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