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|特集|難しい時代にこそ求めたい、倫理という視点

|特集1|ニューノーマルの時代にCTCが果たすべき役割 The New Answer

新しい分野の規範を作る上で倫理が起点となる

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次に、急速に進化が進む人工知能(AI)について伺います。今後、AIの活用によって相手の心が読める時代になるとも言われますが、そうしたAIの発展を懸念する声も多くあります。AIにおける倫理学的な論点を教えてください。
児玉

AIの倫理は最近色々と問題になっていますね。例えば、人工知能学会では、AI研究の進展が人類を脅かすのではないかという懸念が一般にあることから、学会が自ら、自分たちがどのような集団であるかを明確にする必要があるとして、2017年に倫理指針を作りました。AIについて特徴的なのは、まだ実用化されていない技術が複数あり、何が現実になるかわからないゆえに恐れられるという点です。そして、そうした恐れが現実にならないようにするにはどうすればよいかと考えることで倫理規範が作られています。

──
つまり、AIについて私たちが何を恐れているかを考えることで、AIに関して社会が持っておくべきルールのようなものが見えてくるということですね。
児玉

そうですね。内閣府は2019年に「人間中心のAI社会原則」というものを発表しました。AIの社会実装における7つの原則で、まさにAIへの私たちの懸念がよく表れていると言えます(表)。

例えば、1番目にあげられている「人間中心の原則」の背後には、AIによって人間の行為者性、自律性が失われるのではないかという私たちの恐れがあると考えられますが、自律性というのはカントの倫理理論へ行きつきます。同様に他の原則にも、背景に倫理の考え方があるものがあります。つまり倫理は、このような未知の分野についての指針や原則を考える際にも一つの起点としての役割を果たすと言えるでしょう。

AIは、まずこれらの原則に則って設計される必要があり、その上で、実際に使われる中で何か問題が起きた際にどうするか、という点についても、できる限りあらかじめ議論をして指針を決めておくことが重要です。社会には倫理的に判断が困難な多くの事態があり、根幹の部分ではやはり人間の判断が必要になる、というのはAIに関することであっても変わりはないと思います。

表 人間中心のAI社会原則

社会がAIを受け入れ適正に利用するため、社会が留意すべき基本原則(7原則)

原則 説明
人間中心の原則 AIは、人間の労働の一部を代替するのみならず、高度な道具として人間の仕事を補助することにより、人間の能力や創造性を拡大することができる等
教育・リテラシーの原則 人々の格差やAI弱者を生み出さないために、幼児教育や初等中等教育において幅広く機会が提供されるほか、社会人や高齢者の学び直しの機会の提供が求められる等
プライバシー確保の原則 パーソナルデータを利用したAI、及びそのAIを活用したサービス・ソリューションは、政府における利用を含め、個人の自由、尊厳、平等が侵害されないようにすべきである等
セキュリティ確保の原則 社会は、AIの利用におけるリスクの正しい評価や、リスクを低減するための研究等、AIに関わる層の厚い研究開発を推進し、サイバーセキュリティの確保を含むリスク管理のための取組を進めなければならない等
公正競争確保の原則 特定の国にAIに関する資源が集中することにより、その支配的な地位を利用した不当なデータの収集や主権の侵害が行われる社会であってはならない等
公平性、説明責任、及び
透明性(FAT)の原則
AIの設計思想の下において、人々がその人種、性別、国籍、年齢、政治的信念、宗教等の多様なバックグラウンドを理由に不当な差別をされることなく、全ての人々が公平に扱われなければならない等
イノベーションの原則 Society 5.0を実現し、AIの発展によって、人も併せて進化していくような継続的なイノベーションを目指すため、国境や産学官民、人種、性別、国籍、年齢、政治的信念、宗教等の垣根を越えて、幅広い知識、視点、発想等に基づき、人材・研究の両面から、徹底的な国際化・多様化と産学官民連携を推進するべきである等

「人間中心のAI社会原則検討会議」(内閣府)にて2019年、社会が留意すべき原則としてまとめた「人間中心のAI社会原則」

【出典】「国内外の議論及び国際的な議論の動向」総務省(令和元年5月)

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