|特集|科学・工学系の解析、シミュレーション技術で社会課題の解決に挑む「科学システム本部」

脱炭素社会、カーボンニュートラルの実現に向けて世界が舵を切り始めた今、従来のモノづくりは変革を求められています。
CTCでは、各分野での変革を後押しすべく、IT技術と解析・シミュレーション技術を活かした新しいソリューションの開発を続けています。
その開発の核となる「科学システム本部」の取り組みをクローズアップします。
取材・文/近藤 雄生
複合材開発/CAE分野 02
AIを活用した新ソリューションでより効率的な複合材開発を目指す
軽量で強度の高い複合材のニーズが高まる中、その設計にサロゲートモデルを導入するなど、AIを活用した新しいソリューションを開発。複合材開発を効率的に支援しています。

山田 弦
材料・工学技術部
学生時代から、シミュレーション工学に興味を持ち、CAE分野に6年間携わる。最近は短繊維強化複合材の解析技術構築に注力している。
- ──
- CTCにおける複合材への取り組みについて教えてください。
- 山田
-
近年の二酸化炭素排出量削減に向けた全世界的な取り組みの中で、自動車業界ではEVシフトが急速に進んでいますが、車体も、従来の鉄鋼材から軽くて強靭な複合材への移行が広がっています。複合材とは、異なる材料を組み合わせて一つの材料として形成されたものです。特に需要が大きいのは、ガラスや炭素の繊維材を樹脂で固めた、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)です。CTCでは主にそれらの複合材を対象に、設計や製造を支援するソリューションの開発に取り組んできました。
- ──
- 提供している複合材のソリューションは、具体的にはどのようなものでしょうか。
- 山田
-
CTCが複合材に関するソリューションの開発を始めたのは2011年にさかのぼります。当時はまだ複合材のシミュレーション解析は一般的ではなく、当社もまずは、複合材のモデル化を手探りで行うところから始めました。徐々に様々な形状について高い精度でモデル化ができるようになると、次はそれをベースに、必要なパラメータを入力すれば複合材の特性を予測できるソフトウェアの開発や、計測と解析を連携させたソリューションを開発するなどしてきました。最近の新しい取り組みの一つとして、疲労度評価があります。複合材の疲労度を評価・予測するシミュレーション技術はまだ確立されていませんが、CTCはこの分野でもいち早くお客様のニーズに応えることを目指しています。
- ──
- AIを活用したソリューションの開発も行っていると聞いています。
- 山田
-
現在開発を進めているものの一つは、「サロゲートモデル」を活用したソリューションです。サロゲートモデルとは、従来のCAE(Computer Aided Engineering)によるシミュレーションを機械学習によって代替したモデルを指します。つまり、厳密な数値計算ではなく、各種データを元にして機械学習的に解析を進めるモデルです。これを活用すれば、設計者は、設計段階で度々CAE技術者に相談せずとも、自ら当たりを付けながら設計を進めていくことが可能になります。最終的にはCAEによる正確な計算が必要になるものの、設計効率を大幅に上げることが期待できます。また別な例を挙げると、材料にはそれぞれ、その特性を数式で表現した「材料構成則」というものがあるのですが、未知の材料の構成則を、ニューラルネットワークによって構築する可能性を探る研究も行っています。AIのような新しい技術についても積極的に研究開発を続けていくことが、当社の技術力の礎になっていると感じます。
- ──
- 複合材の新しいソリューションや解析技術を確立することで、現在の環境問題にどのように貢献できるか教えてください。
- 山田
-
まず複合材自体が、軽くて強いという特性から、自動車の燃費向上に直結するなど、環境改善に寄与できる材料だと言えます。加えて、良いソリューションや解析技術を確立することは、製造現場の負荷を下げるという点から環境問題に貢献できます。例えば、従来の自動車製造においては、設計して実物で実験するということを繰り返しますが、高度な解析技術があれば実験を減らせます。それはつまり、物理的なモノの移動や破壊を減らすことにつながるため、環境への負荷を下げます。二酸化炭素排出量の削減が喫緊の課題となる中、今後ますます、環境への影響を考慮しながらソリューションの開発を進めていきたいと考えています。
CFRP製高圧ガス容器のバースト解析
コンピュータ上のモデルで強度を把握
高圧ガスを充填するための容器は、一般的に鉄製ですが、重くて運搬が困難といった課題があります。そのため現在、複合材であるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製のものが開発されています。CFRPで作ると、重量を鉄製のおよそ1/3にできるのです。その強度を評価するために、コンピュータ上でモデル化し、シミュレーションした結果を示しているのが右図です。容器の内圧を高めていくと、胴体部分の一部の圧力が特に高まり、バースト(破壊)に至ることが見て取れます。こうしたシミュレーションによって実験を代替することで、複合材の設計過程が効率化できます。同時に、環境負荷も低減できます。

記載内容は掲載当時の情報です。最新情報と異なる場合がありますのでご了承ください。