|特集|科学・工学系の解析、シミュレーション技術で社会課題の解決に挑む「科学システム本部」

脱炭素社会、カーボンニュートラルの実現に向けて世界が舵を切り始めた今、従来のモノづくりは変革を求められています。
CTCでは、各分野での変革を後押しすべく、IT技術と解析・シミュレーション技術を活かした新しいソリューションの開発を続けています。
その開発の核となる「科学システム本部」の取り組みをクローズアップします。
取材・文/近藤 雄生
土木工事/建設分野 04
土木工事を可視化して情報を共有、社会の安心安全に貢献する
施工現場を可視化するBIM/CIM技術や、構造物に関わる各種情報を長期的に管理するプラットフォームを確立。
土木技術を次世代へとつなげます。
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- 建設ビジネス推進部の主な事業内容について教えてください。
- 藤田
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現在、力を入れている取り組みの一つとして、土木の施工現場を見える化する技術の確立があります。現場の3次元モデルを作り、そこに各種情報を集約していくというもので、BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management「ビムシム」)と呼ばれます。建築の分野では以前から同様のことが行われていましたが、土木工事の現場は、土地の自然環境の影響を強く受けるために一般化が難しいなどの事情から、なかなか進みませんでした。
しかし、私たちは長年、BIM/CIMの研究開発を重ねてきており、現在、複数の現場でBIM/CIMによるソリューションを提供できるようになっています。また、BIM/CIMを発展させた形として、施工前の測量や設計、さらに施工後の維持管理までを含めた土木建設のライフサイクル全体の情報を3次元モデル上で統括・管理するプラットフォーム「ILSIM」の開発も進めています。

藤田 未央子
建設ビジネス推進部
エキスパートエンジニア
大学で土木工学を専攻、入社後は建設分野向けの製品開発に従事。3次元CADを用いて施工現場の課題解決を支援するサービスの開発を担当。
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- BIM/CIMの具体的な事例を教えてください。
- 藤田
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土木には、ダムや橋梁からトンネルや地盤まで様々な工事がありますが、当社が現在BIM/CIMによるソリューションを先行して提供しているのは、土工転圧工事、地盤改良工事、シールドトンネル工事の3種です。いずれも地面より下の工事で工程が見えないため、見える化のニーズが大きいのです。土工転圧工事は、山を切り開いて造成したり、土地をならして平らにしたりする工事です。もともとの地形が、重機の動作によってどう変化したかといった工程が可視化されることで、工事の経過が後からでもわかるようになります。地盤改良工事は、地盤の強度を高める工事です。例えば、地面に穴を掘ってセメント系の薬剤を注入するという方法があります。その際、どこにどれだけ薬剤が入ったかという情報と、その場所の地層や路面の情報を併せて可視化することで、工事が地盤にどのような変化をもたらしているかが視覚的に把握できます。
そしてシールドトンネル工事は、シールドマシンが地下を掘削してトンネルを作る工事ですが、その様子を可視化することで、マシンの微妙なずれをリアルタイムで補正したりすることが容易になります。このように土木の現場を見える化することで、施工を効率化するだけでなく、現場の状況を見えやすくし、問題に気づくのを容易にするなど、多面的に工事をバックアップします。
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- ILSIMは、設計、施工から維持管理までの情報を統合するプラットフォームとのことですが、そのように情報を統合することはどのように役に立つのでしょうか。
- 藤田
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土木工事は公共事業のため、一般に、設計、施工、維持管理の各工程を請け負う会社が異なります。さらに土木構造物や社会基盤はライフサイクルのスパンが長く、情報の受け渡しや蓄積が難しくなりがちです。そのため、このようなプラットフォームで情報を一元的に管理し、複数の事業者がそれぞれ必要な情報にアクセスできるようにすることは、とても有用なのです。情報が長期間にわたって蓄積されていくことで、ベテランから若い世代への技術の継承にも役立つと考えています。
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- 環境問題への意識も高まる中、土木分野でのソリューションを開発する上での今後の展望について教えてください。
- 藤田
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土木はもともと、自然環境や災害に関連した課題解決が目的でもあるので、環境問題は常に身近です。そうした中で、各種構造物や社会基盤が安心安全に次の世代に受け継がれていくためには何が必要か。そのことを意識しながらソリューションを開発することが、私たちの仕事だと思っています。様々な情報が共有され、次世代へと受け継がれていくことは、きっと社会の大きな財産になります。その考えのもと、これからも開発を進めていきます。
地盤改良工事の見える化
薬剤を注入した地層を視覚的に把握
CTCでは、地盤の強度を高める地盤改良工事において、施工現場を見える化するソリューションを提供しています。右図では、地面(上方の青い長方形部分)に掘った穴に注入した薬剤がどのように入っているかを可視化しています。球の色などから、地下の各部分にどれぐらいの量の薬剤がどの程度の速度で入っていったかがわかります。一方、波打っているオレンジ色の面は地層の境界に当たります。ここで地層の状態が変化していることを示しています。これらを総合して見ることで、薬剤の注入によって地面の状態がどう変化したか(隆起や沈下)、地層の状態との関係はどうか、といったことを視覚的に知ることができます。

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