DWH構築によりスピーディで的確なキャンペーンの実施が可能
キャンペーンにはマーケティング部門のノウハウが凝縮されている。どの製品をどのタイミングで、どのような顧客層を対象に実施するのか。どのようなメッセージで潜在顧客の注目を集め、どのような施策でインナーのモチベーションを高めるのか。そして、実施後には効果を分析し、次のキャンペーンに備えなければならない。
このような活動の支援にはITが不可欠となっており、その核となるのがDWH(Data WareHouse)だ。富士火災海上保険株式会社(以下、富士火災)は、このDWHに各種ツールを組み合わせ、収益体質を強化するマーケティングオリエンテッドなDWHを構築した。
課題と効果
- 課題
-
- キャンペーンの短期化
- 名寄せや成果分析の精度向上
- 素早いキャンペーン用データ入手
親和性の高いツールを組み合わせて
マーケティングオリエンテッドなDWHを構築
- 効果
-
- キャンペーン期間をわずか3ヵ月に短縮
- ツール活用により精度を向上、名寄せは7~14%(法人情報の場合)ほど向上
- 欲しいときにデータを取り寄せ、自在に加工・分析
導入事例インタビューデータ
- 会社名
- 富士火災海上保険株式会社
- 所在地
- 大阪市中央区南船場1丁目18番11号
- 資本金
- 413億円(2006年9月末現在)
- 設立
- 1918年(大正7年)4月18日
- 総資産
- 1兆704億円(2006年9月末現在)
- 従業員
- 6,389名(内務職員3,954名、営業職員2,435名) (2006年9月末現在)
- 事業内容
- 損害保険業
- URL
- http://www.fujikasai.co.jp/
-
富士火災海上保険株式会社
セールス&マーケティングスタッフ
中谷謙一 氏
-
富士火災海上保険株式会社
営業本部データベースマーケティング部 企画推進グループ グループ長
小林 正和 氏
導入背景
新3ヵ年経営計画を発表 [収益体質を維持・発展させつつ増収転換を目指す]
火災、海上、傷害、自動車、自動車損害賠償責任などの損害保険商品を提供する富士火災。「身近で頼れるプロフェッショナル」をモットーに、顧客重視の経営を続けてきた。同社では2005年度から新3ヵ年経営計画を発表。それまでの収益体質を維持・発展させつつ、「画期的な新商品」「高度な販売力を有するチャネル」「先進のマーケティング」による増収転換を目指している。「直近のデータ※ですが、弊社のシェアは4.6%、業界7位ながら増収率では3位に付けています。新3ヵ年経営計画による効果が確実に現れているといっていいでしょう」と、セールス&マーケティングスタッフ 中谷 謙一 氏は語る(※:損保VAN調査2006年10月)。
新3ヵ年経営計画を実現する「画期的な新商品」としては、充実したサービスの自動車保険「ベリエスト」があげられるだろう。附属するサービス「安心コール1(ワン)」では、自動車事故の際に連絡すると、1時間以内に対応状況を受け取ることができる。このほか多彩なサービスが認められ、週刊東洋経済(2006/4/22特大号)において自動車保険ランキング1位を獲得している。
その他にも多彩な新商品を企画し、着実に商品力を伸ばしている。
PA社員を最大限に活用する [データベースマーケティング]
魅力ある商品をお客様に販売する役目を担う「高度な販売力を有するチャネル」としては、富士火災独特のPA社員(プロフェッショナルアドバイザー)制度がある。通常、損害保険業界では代理店を通した販売が中心となり、自社で直販専門の社員を持つことはあまり見られない。「自社の社員ですから、確実な教育と高いモラルを期待できます。そのため、変化の激しい時代の中でも最適な商品をタイムリーにお客様に提案できます」と、中谷 氏は強調する。そして、これら販売チャネルを強力に支援するのが「先進のマーケティング」であるDBM(Database Marketing)だ。
販売力強化のため、富士火災がDBMに取り組んだのは、2002年11月のDatabase Marketing室設立にさかのぼる。同時にコールセンターも開設し、Lead Generation Operationのテストマーケティングも開始する。
Lead Generation Operationとは企業向けのDBMで、既存の顧客情報から見込み客を抽出し、コールセンターからアポ取りの電話をかける。アポが取れたら営業担当のPA社員へつなぎ商談に入る、というものだ。
試験的に開始したDBMが成功し、2003年4月にはDatabase Marketing部に昇格。アウトバウンド(顧客に電話をかけること)専用のコールセンター窓口も開設した。
2004年には個人向けに特化した扱者支援型通販を開始。さらに、Event-Driven Marketingにも着手した。これは、誕生日やボーナス支給日、決算日、引っ越しなどのタイミング(お客様自身のイベント)を測ってアプローチする手法である。
DBMはさらに進化を続け、2005年4月には協会や組合など、1つの組織内に存在する似通ったニーズを持つ顧客層へアプローチするAssociation Marketingを開始した。この顧客の特性やニーズを重視した一連の強化により「先進のマーケティング」を実現してきた。
浮かび上がったDBMの課題 [スピードと精度]
「このようにDBMを進化させ、様々なキャンペーンを打ち、大きな効果をあげるようになりましたが、同時に課題も見えてきました。それがスピードと精度の問題です」と、営業本部データベースマーケティング部 企画推進グループ グループ長 小林 正和 氏は振り返る。
従来のキャンペーンでは目標を決めると、まずは顧客層を想定し、システム部門に依頼をかけ既存データベースからターゲットを抽出していた。「この抽出には、システム部門に依頼してから2ヵ月ほどかかるのが常でした」(小林 氏)。
得られた顧客情報はコールセンターへ送られアポ取りの作業にかかり、アポが取れれば商談に入る。この実質的なキャンペーン展開期間が2ヵ月ほどである。
キャンペーン終了後は成果把握と成果分析に入る。この成果把握と分析に3ヵ月がかかっていたうえ、精度にも課題が残っていた。
トータルでは1回のキャンペーンに約8ヵ月を要しており、これでは度々キャンペーンを打つというわけにはいかない。2ヵ月の実質的なキャンペーン展開期間の短縮は困難にせよ、前後の準備や把握・分析を大幅に短縮させ、成果分析の精度を上げたいと、マーケティング部門では考えていた。
「それでなくともLead Generation Operation、扱者支援型通販、Event-Driven Marketing、Association Marketingの4種類のデータベースを持つことになり、ホストシステムが限界に近くなっていました。そこで、もっと使いやすいマーケティング用のシステムを構築しようということになりました」(中谷 氏)。
導入経緯
OracleDWHを核にツールを組み合わせ提案 [システム全体の一貫性が認められ受注
新たなシステムは、マーケティング部門はもちろん、全社的にEUC(End User Computing)を実現するためにも、取り組まなくてはならない大きな課題であった。
2005年5月、RFPを数社のITベンダーに提供し、提案を依頼。各社の提案を検討した結果11月にCTC案が採用された。
「各社一長一短がありましたが、CTCは提案している仕組みやツールに一貫性がありました。Oracle Warehouse Builder(OWB)によるDWH構築、ターゲット抽出にOWB Discoverer、データマイニングにClementine、名寄せツールにトリリアム。それぞれ親和性の高いツールが組み合わされており、シンプルで安心感がありました」と、中谷 氏はCTCの提案を評価する。
Oracle Warehouse Builder(OWB)はデファクトスタンダードとなっているDWH構築ツールであり、これに親和性の高いOWB Discovererを組み合わせている。
また、データマイニングツールのClementineは、キャンペーンの企画や顧客絞り込み、効果分析に使用する。全世界で大きなマーケットを持っており、開発元のSPSS社とオラクル社との協業も進んでいる。「Oracleは社内でも精通している人間が多く、構造やインターフェイスに慣れています。また、片方がバージョンアップしたからといって、もう片方が使えなくなるという状況は避けたかった。その点では社内の既存システムと相性のいい、安心して使い続けることのできる組み合わせだと思いました」(中谷 氏)。
そして、名寄せツールのトリリアム。名寄せとはデータベースに複数登録されている同一人物、同一企業、同一世帯のデータを、整理し重複をなくすことである。顧客データの名寄せは、複数のデータベースを統合する際には不可欠な作業となる。キャンペーンを実施する際には名寄せして重複データを排除しないと、同じDMや電話が複数届くことになり、余計なコストが発生するし、何より顧客に迷惑をかける。この名寄せツールのデファクトスタンダードとなっているのがトリリアムである。
システム概要
マーケティングオリエンテッドなDWHの完成
2005年11月から要件定義に入り、続いてシステム構築に着手した。第一次完成は翌2006年10月。「システム最大の特長はマーケティングオリエンテッドなDWHということです。我々マーケティング部門のキャンペーンノウハウをすべて盛り込みました。加えてCTCのDWH構築ノウハウと一体化され、極めて高度で使いやすいシステムが完成しました」と、中谷 氏は自負する。
ターゲットリストの作成からキャンペーンの実施と成果把握まで、きめ細かなキャンペーン管理機能が盛り込まれている。「このような充実した管理機能は、パッケージでは求めることができません。個々のツールを組み合わせて構築した理由はこのような機能を求めたからです」(小林 氏)。ツールを組み合わせて構築したので、手組みでは得られない構築コストと運用コストの削減も可能だ。
複数のデータベースから顧客情報を集約する。日次運用では契約データ、事故データ、キャンペーンデータから追加していく。そして、Association Marketingで使用する協会や組合などのデータを随時取り込んでいく。このようなデータの集約と一元管理に名寄せツールのトリリアムが活躍している。
しかしこの名寄せのルール作りには苦労したという。当時プロジェクトリーダーだった中谷氏自らが開発現場に足を運び、缶詰めになって生データと向き合った。「文字の揺れやカンマなどの不純物が混じっているケースがあり、既存の顧客情報の汚れは想定以上でした。また、内部の人間でないとわからない情報もありますから、最終的なルールは内部の人間が決めなければなりません」(中谷 氏)。
キャンペーン期間を3ヵ月に短縮 [名寄せ精度も7~14%向上]
構築後、まだ間もないため本格的なキャンペーンはこれから実施される予定だ。「しかし、従来8ヵ月かかっていたキャンペーンをわずか3ヵ月に短縮することができます」(中谷 氏)。
2ヵ月の実質的なキャンペーン展開期間は同じとしても、準備であるターゲットセグメンテーションとデータ抽出は1ヵ月以内、終了後の成果把握と成果分析はわずか数日でできるようになる。キャンペーン期間は実質3ヵ月ほどとなり、従来以上に多くのキャンペーンを打てることになる。「システム部門に依頼することなく、自分たちで簡単にデータ抽出することが可能です。極端な話、その場の思いつきでもデータを抽出できるようになりました」(中谷 氏)。
精度の向上も見逃せない。名寄せにおいては従来の7~14%(法人情報の場合)ほど精度が上がっており、その分のコスト削減が可能となっている。
今後の取り組み
今後の展望と課題 [システム連携と他部門でのデータ活用へ]
2006年10月で第一次を完成させており、すでに第二次へのシステム構築へと入っている。第二次は一次でカバーできなかった点の追加・修正と、エンハンスが中心となる。
また今後は既存システムとの連携も検討しており、社内の他システムと連携して、データ収集やキャンペーン結果のフィードバックなどの効率化を図る予定だ。
「構築したDWHの活用の一環として他の部門への展開も考えています。DWHの顧客データはもちろん、データマイニング機能はキャンペーン管理のほか、チャネル管理、商品開発、顧客管理、損害サービスにおける多次元分析が可能です。各部門にツールを開放して、さらにEUCを活発化できるのではないかと期待しています」と、中谷 氏は抱負を語る。
新システムは収益体質の強化を強力に支援している。戦略策定を支援するための仕組みは一通り整備された。今後は全国の営業店とPA社員や管轄する代理店との間で、情報を共有しながら効果的にキャンペーンを実施するなど、顧客接点で発生している重要な生の情報をフィードバックし、DWHに蓄積される情報が一層活性化することで、より戦略的なDBMへと発展し続けていく可能性もある。今後も新たな戦略実行の強力な武器としてDBMが進化し活用されていくことが期待されている。
用語解説
データベースマーケティング
顧客の属性や動向を記録したデータベースを利用して行うマーケティング。購買傾向などを分析して、それぞれの顧客に合ったサービスを提供する。
名寄せ
顧客名簿などに1人の顧客が複数登録されている際、表記などの違いを分析して集約していく作業。主に金融機関で行われており、名寄せによって一顧客の保有する預金総額を算出したりする。
データマイニング
膨大な量のデータを解析して、有用な情報を抽出する技術。DWHなどのデータを解析し、項目間の相関関係やパターンなどを探し出したりする。