マルチキャリアやAPの集中管理を実現
阪急阪神東宝グループのIT事業会社であるアイテック阪急阪神は、スマートフォンの普及に伴う携帯電話回線の逼迫を受け、2011年秋より阪急阪神ホールディングスグループの鉄道駅舎や商業施設等において、利用者の利便性向上とグループ企業の業務活用を目的に公衆無線LANの整備を進めるプロジェクトをスタートさせた。2012年9月末には、阪神電車4路線全49駅、阪急電車6駅、甲子園球場、阪急西宮ガーデンズ等での整備が完了した。
このプロジェクトにおいて伊藤忠テクノソリューションズ(以下CTC)は、運用を含めてワンストップで無線環境を構築できるアルバネットワークス製品を採用するプランを提案。1日約60万人が利用する阪神電車の各駅でWi-Fiサービスを提供し、利用者の快適な通信環境に貢献している。さらにアイテック阪急阪神では、阪急電鉄や北大阪急行電鉄の全駅に整備を進めると共に、グループが運営するさまざまな商業施設においても無線LAN環境の整備を進めていく計画だ。
導入事例インタビューデータ
- 会社名
- アイテック阪急阪神株式会社
- 創業
- 1969年6月
- 従業員数
- 673名(2012年3月末現在)
- 本社所在地
- 大阪市福島区海老江1丁目1番31号
- URL
- http://itec.hankyu-hanshin.co.jp/
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阪神電気鉄道株式会社
EC(エンタテインメント・コミュニケーション)事業本部 CM(コミュニケーションメディア)統括部 経営企画室 課長
宮川 修一 氏
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アイテック阪急阪神株式会社
マルチメディア事業本部 IPソリューション部 ネットワーク技術課 主幹
南村 達哉 氏
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アイテック阪急阪神株式会社
電子機器事業本部 電子技術部 カスタマサービス課 主幹
梶邑 直人 氏
お客様企業概要
阪急阪神グループのIT基盤を支える高い技術力がグループ外でも高く評価
アイテック阪急阪神は、阪急阪神東宝グループで唯一のIT事業会社で、グループのIT基盤を一手に支えている。同社は、三菱電機との業務提携でコンピュータ関連業務を開始した異色の経歴を持ち、以後、40年を超える歴史の中で事業領域を拡大。現在では、システム開発事業、インターネット事業、医療システム事業、メンテナンスや電子機器開発などの技術サービス事業、昇降機設備の販売や監視制御システム開発などのビル関連事業など多岐にわたる。
しかも、コンサルティングからハード/ソフト設計・開発、運用管理まで、オールインワン・サービスの提供が大きな特徴だ。同社は国内有数の企業グループに属しながらも、グループ外の売上比率が6割を占めるなど、先進かつ高度な技術力と豊富なノウハウが、多くの企業から高く評価されている。実際、在来線で国内最古の部類に入る「列車運行管理システム」、高度なリアルタイム処理が要求される「駅務オンラインシステム」の開発など、鉄道関係の制御装置に強みを持ち、同社が開発した制御装置は全国の多くの鉄道会社で採用されている。
導入背景
利便性と将来の活用を考え、自前にこだわり無線LANを整備
近年、スマホやタブレット端末のユーザーが急速に増えたことから、携帯電話回線のオフロードとして無線LANのニーズが高まってきている。同社が公衆無線LANの整備を検討することになったのは、施設管理者の「マルチキャリアおよび業務利用も可能な公衆無線LANの実現」というニーズに応えたいという思いからである。
阪神電車では、4年ほど前にある大手通信キャリアのアクセスポイント(AP)を設置したが、設置駅が2駅と少なく、大手携帯電話会社3社のうち1社が利用できるのみで、利用者が限られていることが課題となっていた。しかしその後、スマホやタブレット端末のユーザーが急速に増えたことから、2011年に入って無線LANインフラの整備が改めて課題としてクローズアップされることとなった。阪神電気鉄道 CM統括部 課長の宮川修一 氏は次のように解説する。「鉄道利用者の利便性を考えた場合、すべてのキャリアのWi-Fiサービスに対応することは必須です。しかし、キャリア各社がそれぞれ無線LANを設置したのでは、電波が干渉し無線LANの性能を活かせません。また、乗降客の多寡によって整備状況が異なっては、全駅で均一のサービスが提供できません。これらの結果、お客様の利便性を損なうこととなります。また、業務での活用や、自分達が考えるお客様サービスを実現する際にも支障が出てきます。そこで、自前で設備を持ち、運用することが不可欠と判断しました。」
こうした経緯から、自前での無線LANインフラの整備を進め、その一部を移動体通信キャリアに提供するという方針が決定。同年の秋より、まずは、阪神電車の駅舎と甲子園球場を対象に、Wi-Fiサービスを整備するプロジェクトがスタートした。
製品選定の要件
集中管理、拡張性、信頼性の高さを評価してアルバ製品を採用
無線LAN製品の選定にあたって、アイテック阪急阪神が重視したのが信頼性と拡張性であった。その要望を受けてCTCでは、駅や球場という公衆無線LANが乱立している環境でいかに快適な無線LAN環境を構築していくかという点を強く考慮。さらに今後、阪急・阪神の全駅における無線LANの大規模展開が予想されていたことから、機能的な優位性(集中管理や、細かなロール設定が可能)に加え、運用を含めてワンストップで無線環境を実現できるアルバ製品による構築を提案した。
この間の経緯について、アイテック阪急阪神 電子技術部 カスタマサービス課 主幹の梶邑直人 氏は次のように説明する。
「複数の候補がある中で、単独で完結するタイプの製品か、集中管理タイプの製品か検討しましたが、安定的な運用・管理を考えるとやはり集中管理できる製品が良いということになりました。その中でもCTCが提案してくれたアルバ製品は、さまざまなネットワーク環境に対応し、そのすべてを一元的に集中管理できる点が優れていました」
もう1つ、梶邑氏が評価するのがアルバ製品が備えるAdaptive Radio Management (ARM) 機能だ。
「ARM機能により、Wi-Fiクライアントを最も高速で利用できるチャネルへ自動的に割り当てるため、利用者は特に意識しなくても常にノイズや干渉源の少ないチャネルを利用できます。また、ロードバランシング(帯域負荷分散)機能やアクセス調整機能により、特定APへのアクセス集中とパフォーマンス低下を防止するため、ターミナル駅のような利用者の密度が高い場所には最適な製品と判断しました。」
IPソリューション部 ネットワーク技術課 主幹の南村達哉 氏も、「CTCは拡張性やセキュリティについても十分に考慮した提案をしてくれました。例えば、アルバ製品はSSID(無線LANの識別ID)を数多く追加できるため、将来の利用者の拡大にも容易に対応できます。また、VPNでの高いセキュリティも大きなメリットで、もし、何らかのトラブルで社内ネットワークがダウンしても、インターネットを通じてセキュアにセンターと接続できます」と語る。
無線LAN製品の選定にあたり、アルバネットワークスのサニーベール本社に出向いて製品開発の現場を視察した宮川氏は、「今回の無線LANシステム構築におけるポイントは、非常に多くのユーザーが利用する施設で有線LANと同等の速度を確保することと、ユーザーに依存しないセキュリティを実現することでした。非常に難しい要件であるにも関わらず、同規模の構築実積を持ち、無線LANのスループットの具体的な数値を挙げていたこと、セキュリティに関する豊富なノウハウ、検証環境、そして運用面にまで踏み込んだ提案が盛り込まれていたことを高く評価し、CTCにお願いしました」と解説する。
導入効果
朝夕のラッシュ時などアクセス集中時も安定運用を実現
阪神電鉄では、2012年3月に甲子園駅と阪神甲子園球場でサービスを開始し、4月には3キャリアのWi-Fiサービスに対応した。そして、このほど神戸高速線5駅の設置が完了したことで、阪神線の4路線全49駅について配備を完了した。
他の鉄道会社でも、Wi-Fiサービスを提供する企業は増えている。だが、ホームに1台のAPというケースも少なくなく、アクセス可能エリアが限られることが多いのに対し、阪神電鉄ではホームに1~10台のAPを設置し、ホームのどこに居ても確実につながる環境を整備するなど、その充実ぶりが伺える。
現在、同社ではモビリティコントローラーにAruba 6000を2台採用して冗長化し、鉄道敷光ファイバーケーブルを使用した幹線LANを通じて各駅と甲子園球場のAPを結んでいる。APにはAruba AP-135を採用し、合計の設置台数は200台を超える。
「朝夕のラッシュ時など、アクセスが集中する時間帯には最大で1,500ユーザーが同時接続するというケースがありますが、一切、問題なく安定したアクセスを実現しています。その信頼性の高さを見ても、CTCの提案を選択したわれわれの判断は正解だったと感じています」と宮川氏は高く評価する。
今後の展望
無線LANをグループ全体へ展開、アクセス状況の詳細分析で潜在需要を開拓
今後、アイテック阪急阪神では、2012年7月末よりスタートさせた阪急線での整備を進め、1年半程度を目途に完了させる計画だ。また、既にサービスインした阪急西宮ガーデンズや阪急三番街に加え、その他の商業施設へも順次展開していく予定だ。
同時に、車両内での公衆無線LANサービスや列車運行状況のモニタリングなどの業務利用の検討を積極的に進めていく。システム管理の立場からも、Aruba AirWave管理システムを用いて無線空間の「見える化」を図り、利用状況の的確な把握に努めたいという。
「既に、アクセス状況をモニターで管理してはいますが、詳細な利用状況の把握やデータの蓄積・分析には、AirWave管理システムの活用が不可欠と考えています。これにより将来のシステム投資の最適化を図ることができます。
例えば、球場における人の流れや行動の把握、リピート率の管理などが的確に行えるようになれば、個々のお客様に対してクーポンやお得情報のタイムリーな提供が可能になります。これを『甲子園球場アプリ』のような形で提供することで、リピート率の向上や潜在的な需要の掘り起こしに結び付けていきたい。そうした運用面でもCTCのサポートを期待しています」と南村氏は語る。