ローカル5Gの商用利用が進むのはもう少し先になりそうですが、今年度も令和3年度の総務省ローカル5G開発実証をはじめ、商用利用を見据えた実証実験があちこちで進められています。総務省ローカル5G開発実証においては技術的なテーマが幾つか定められています。今回は技術テーマの中でも、ローカル5Gのカギを握る「準同期」とは何か?についてご紹介します。非常に専門性の高い内容ですが、出来る限りわかりやすくご紹介できればと思いますので、お付き合いください。
1.今さら聞けない「同期」とは?
「準同期」について説明する前に、まずは5Gではどのように基地局と端末の通信を行っているかをご紹介いたします。
無線通信で送受信を同時に行う為の技術は幾つかありますが、4G(LTE)では主に、FDD (Frequency Division Duplex:周波数分割複信)という方式が使われています。この方式では、無線区間で基地局が端末に向けて送る下り信号(ダウンリンク)と、端末が基地局に向けて送る上り信号(アップリンク)が別々の周波数を使います。つまり無線区間の道路は一方通行です。明確に信号を送る道が分かれているので、特に時間軸を気にせず、信号を送る必要が生じたら送る、という方式です。
しかしながら、無線利用がどんどん増加していくにつれ、一方通行の道路を全ての通信において確保することが難しくなっています。
このため、5GではTDD(Time Division Duplex:時分割複信)という方式を使っています。キャリア5Gもローカル5Gも全く同じ方式です。TDDは無線区間をより効果的に使うために、ダウンリンクとアップリンクが同じ周波数を使います。逆方向の伝送を同じ道路で行うので、交通整理をしないと信号同士が妨害しあって通信が出来ません。TDD方式の場合は、細かい時間割を決めて、ダウンリンク通信を行う時間とアップリンク通信を行う時間が設定されています。時間割はローカル5Gだけでなくキャリア5G側も共通です。この、時間割を決めて同じタイミングで一斉にダウンリンク/アップリンクの信号を送信することを「TDD同期」と言います。
2.ローカル5Gで「同期運用」を行う課題
このように、キャリア5Gや他のローカル5Gのシステムと全く同じタイミングでアップリンク/ダウンリンクの通信を行うことを「同期」または「完全同期」といいます。同期のタイミングはマイクロ秒レベルで厳密に定義されています。この場合はキャリア5Gとローカル5Gが相互に妨害することはありませんが、キャリア5Gと全く同じ通信比率でしかローカル5Gが使えなくなってしまいます。
同期の場合、アップリンクとダウンリンクの通信比率は「1:4」で、通信時間の多くをダウンリンクが占めます。キャリアサービスを利用するシーンは、動画やサイトの閲覧など、ダウンリンク通信の割合が多いため、このような比率となっています。
ところがローカル5Gは「端末側にカメラを設置してセンター側で確認」「多数のIoT端末からのデータをセンター側で集約」といった、アップリンク通信が重要な場面での利用が期待されています。完全同期だとアップリンク側の通信比率を大きく取れないため、ローカル5Gのメリットである「利用者が独自で柔軟な5Gシステムを利用できること」が実現できません。
キャリア5Gと全く同期をとらない方式を「非同期」と言います。「非同期運用」は前の章でお話しした通りキャリア5Gに影響を与える可能性がある為、ローカル5Gにおいては「携帯無線通信事業者により同期運用される無線局に影響を与えない場合に限り認められる」とされています。
ただし、携帯基地局は今後もどんどん増えていきます。非同期運用を行った場合、キャリア5Gに全く影響を与えずに通信できるエリアは日本国内でもほとんど存在しないのではないでしょうか。
そこで、ローカル5Gのメリットを活かしつつ、キャリア5Gに影響を極力及ぼさない方式として「準同期」が定義されました。
3.今さら聞けない「準同期」とは?
「準同期」は、キャリア5Gなどの「同期」で運用しているシステムと基本的な無線通信のタイミングは揃えつつ、同期システムがダウンリンク通信に使用している時間帯の一部をアップリンク通信に使用することで、同期運用への影響を最小限に抑えてアップリンク通信の割合を増やす方式です。アップリンク通信の割合を増やすことは、アップリンク通信の速度が増すことにつながります。
ローカル5Gの周波数拡張が行われた2020年に準同期の方式が定義されました。この時はアップリンクとダウンリンクの比率は以下の表の通り、1パターンのみ定義されました。完全同期の比率「1:4」に対し、Sub6(4.7GHz帯)の準同期では「4.5:5.5」とアップリンク側への割当が大幅に向上しています。
実際にCTCグループのラボでも2020年に定義された方式を使って準同期の試験を実施しました。完全同期と準同期の通信速度を比較すると、準同期の場合は完全同期の場合の2倍以上のアップリンクの通信速度となり、ほぼ理論値通りの結果となりました。
2021年に入り、よりアップリンク通信を増やす準同期パターンの開発が行われています。こちらが総務省ローカル5G開発実証で行われる「準同期パターンの開発」です。令和3年度のローカル5G開発実証では、各社が新しい準同期パターンにおけるスループットの測定を行い、報告するものと思われます。
4.免許申請における「準同期」の扱い
ローカル5Gの免許申請を行う際、「準同期」利用については各キャリアとの干渉調整は省略されます。ただし、免許申請書類に「準同期」を利用する旨を明記します。例えば、最初は完全同期のみを使用する前提で免許申請し、後から準同期利用に変更する、といった場合は、変更届等の手続きが必要になります。
また、準同期の場合は基地局の設置場所に注意が必要です。キャリア5Gや別のローカル5G局と基地局アンテナを同じ場所に設置(併設)すると干渉影響を及ぼす可能性が高いです。併設に関しては、準同期の場合であっても干渉調整の対応が必要となります。
当初から以下のような場面でのローカル5Gの導入が期待されていますが、準同期はこれらのケースでも有効に活用されると考えられます。
- スポーツやイベントでの、選手やフィールドに設置した高精細カメラ映像の配信
- 工事現場や山岳地での、多数のIoT端末からのデータをセンター側で集約
CTCグループでは準同期利用にあたってのご不明点、免許申請の方法、機器選定についてもご相談に応じますので、お気軽にお問い合わせください。
著者
2002年入社。衛星通信運用業務を経て、2008年より地域WiMAX、Wi-Fiなど無線関連のサービス企画、プリセールス、導入作業に携わる。 現在はCTCグループの5G/ローカル5GにおいてRAN領域全般を担当。