小西氏:再生可能エネルギーの需給予測の分野では、国内ではCTCが先頭を走っていると思います。日本は再生可能エネルギーの分野では世界に大きく出遅れていて、再生可能エネルギーが入ると電力が不安定になり停電しやすいなどと言われることがあります。しかし、再生可能エネルギーの発電電力量は気象予測を使った出力予測技術で予測できるのですから、再生可能エネルギーは「不安定な電源」ではなく、「変動する電源」なのです。
WWFのエネルギーシナリオ研究でも、再生可能エネルギーは今の日本の電力系統のままで50%までは導入可能という結果が出ています。
持続可能な社会の実現に向けて CTCグループが果たすべき役割
本業を通じて持続可能な社会への貢献を目指すCTCグループ。国際社会が「持続可能な開発目標SDGs)」を共通のゴールとして掲げ、ESG(環境・社会・ガバナンス)の取り組みを加速させる中、どのように世の中の期待に向き合うのか。現状を踏まえてCTCグループが果たすべき役割を考えるべく、環境、投資、イノベーション分野の有識者3名を迎えたダイアログを開催しました。
ITは未来にどう貢献できるか
松島:CTCグループの使命は「明日を変えるITの可能性に挑み、夢のある豊かな社会の実現に貢献する」ことです。私たちの事業活動が社会に与える影響を真摯に受け止め、本業を通じたCSR活動を推進しています。生活の隅々にまでITが浸透している今、私たちが果たすべき役割は大きいと考えています。
大久保:実は当社は多くの風力発電やソーラー発電などの再生可能エネルギー事業に関わっています。効率的なエネルギー活用を支援するクラウドサービス「E-PLSM(エプリズム)」も提供しており、再生可能エネルギーの普及を支える事例と言えるでしょう。E-PLSMの提供を通じてIoT技術の活用推進と再生可能エネルギーの普及促進を目指しています。
濵口氏:再生可能エネルギーの利用拡大が進んでいるものの、日本の気象条件では安定した風力や太陽光が得にくいという課題があります。天候や発電量の予測は、電力の安定的供給に不可欠でしょう。ITとエネルギーは今後の社会を考える最大の鍵といえ、その両方をカバーするCTCは特異な立ち位置にいると思います。
大久保:当社には、科学技術に特化した組織があり、再生可能エネルギーの需給予測をはじめ、気候変動の影響に対応するためのビジネスも展開しています。近年、ITは世界中の頭脳をうまく活用して新たなテクノロジーを生み出す方向に動いています。オープンソースの流れの中でITとOT(オペレーショナル・テクノロジー)と呼ばれる運用・制御技術との融合が求められています。電力の安定供給でいえば、発電の効率化のために電力事業者の持つOTと組み合わせていくことが欠かせません。
見えない価値をいかに表現するか
小西氏:お願いしたいのは、例えば「ITをOTと組み合わせればここまでできる」という点をもっと広く社会に提言することです。SDGsに照らし合わせても、目標13「気候変動に具体的な対策を」に直接的に貢献する取り組みですから、それを社会に向けて発信することが大切です。そうしたアピールがまだ不十分な気がします。ITをベースにした事業活動にはSDGsに貢献できるものが多く含まれます。ESG投資の流れが強まる今だからこそ、取り組みを適切に開示してステークホルダーから「選ばれる企業」を目指していくことが大切です。
吉高氏:情報開示の仕方はぜひ意識していただきたいと私も思います。ESGへの注目が社会全体で高まる中、数値化しにくい非財務情報をどう出していくかが企業価値を決めると言え、全てのステークホルダーが腑に落ちる説明が求められています。特に長期スパンで株を保有する機関投資家は、「今できていること」よりも「将来のリスクやビジネスチャンスからバックキャストした際に今どうあるべきか」という情報を非常に気にします。この点は、これまで短期の財務情報以外の開示が少なかった日本企業が苦労するところかもしれません。
松島:非財務情報の価値をどう発信していくかは、私たちも常々課題に感じています。環境面では特に、IT企業であるが故に何をどう捉え、発信していくか悩むところです。
例えばデータセンターは大量の電力を使いますが、クラウドが普及する中でデータセンターの役割は大きくなっていて、電力消費量は簡単には減らせません。
しかし、クラウド化によりユーザー側の環境負荷は下がるので、お客様各社の電力消費は小さくなるのです。サプライチェーンを含めてKPI(具体的目標と主要指標)をどこに置き、目標を設定するかは非常に難しい点です。
小西氏:社会変革と結び付けたアピールが必要なのかもしれませんね。例えば、パリ協定を受けて世界が脱炭素社会を目指す中で、「CTCの技術をもってすれば2030年までに再生可能エネルギーを何%まで伸ばせる」といった文脈での理解が得られれば、CTCの企業価値がもっと理解されやすくなるのではないでしょうか。
「働き方変革」にも新しい発想を
松島:ESGの取り組みの中で、当社がもう一つ重視しているのが「働き方変革」です。2014年度から本格的な取り組みを開始し、平均残業時間の大幅な削減や時間と場所を選択できる働き方の実現など着実に成果をあげています。
吉高氏:従業員満足度は投資家も極めて重視する点で、大切なことだと思います。特に女性の活躍推進は、ESGのS(社会)の最優先課題の一つとされています。
濵口氏:女性の活躍推進では、特許に関する興味深い調査結果も出ています。全ての業種で女性が参画して取得した特許の方が、それ以外より20%収益性が高いのです。これは、女性という異なる視点を得ることの経済価値をはっきりと表しています。女性の活躍が進めば企業は「儲かる」のです。
松島氏:CTCでも女性の活躍支援を強化しています。女性だけではなく、様々な立場の人の視点が入ることで当社のビジネスはもっと進化できると考えています。
濵口氏:20世紀以降、モノやサービスの大量生産が進み、あらゆるものが標準化・均一化されてきた今の社会は、「多様性が価値を生む職場」とは一線を画します。ITが既存の壁を打破し、個人が多様性を活かせる社会が実現可能になってきていると言えるでしょう。
夢のある豊かな社会の実現に向けて
濵口氏:AIやIoTをはじめとするITの進展は、今後ますます社会を変え、ビジネスにも変革を起こしていくでしょう。これまで日本ではプラットフォームビジネスが成立しにくい傾向にありました。
会社を超えて横串を通すような社会構造がなく、ある企業が0から1を生み出しても、その1を土台に10をつくっていく社会的な連携が取れなかったのです。この縦割り構造を乗り越え、新たなビジネスモデルをつくっていく役割もまた、ITが担っています。
大久保:「夢のある豊かな社会の実現に貢献する」ことを企業理念に掲げるとおり、ITを活かして社会基盤を生み出すような事業を目指しています。一つはITソリューションの提供を通じた直接的な貢献です。自社データセンターからクラウドサービスの提供やAI・IoTを活用した新規ビジネスの創造、再生可能エネルギー活用に向けたシステム提供などを通じて、「ITを通じた豊かで持続可能な社会の実現」を目指しています。
もう一つは、お客様が展開する事業に対して、その基盤として堅牢で柔軟なITシステムを供給することです。これは普段、社会が安定的に機能するために欠かせないもので構築には高度な技術力が必要です。このように両面から取り組むことが、CTCのSDGsへの貢献の形と言えるでしょう。
濵口氏:サステナビリティをテーマに、世界にかつてない規模のビジネスチャンスをもたらすのがSDGsです。2030年までには、SDGsをめぐり12兆ドルの経済価値を持つ市場が生まれると予測されており、ここに積極的に取り組んでいく意義は大きいでしょう。
吉高氏:そのとおりですね。中長期で何を目指すかという「WILL」の部分を意識し、ぜひSDGsを通して企業価値を表現していただきたいと思います。
小西氏:「中長期の視点」は大変重要です。先ほど環境側面についてKPIの設定が難しいというお話もありましたが、投資家から適正な評価を受けるためにも中長期の環境目標を持つことは避けられなくなっています。どこに向かおうとしているのかビジョンを示すものとして、慎重さを超えて発信していくことを検討いただきたいと思います。
吉高氏:対投資家、対社会はもちろん、社内でも目指すものを共有するのにSDGsは有効です。SDGsを社内外のコミュニケーションツールとして活用することをおすすめします。17のゴールと169のターゲットに当てはめることで、社員は社会への貢献が自分事として捉えやすくなり、モチベーションも向上します。「明日を変える」可能性を持ったITを活かし、「夢のある豊かな社会」を目指していかれることを私も期待しています。
松島:将来的には役員も社員も、「SDGsの達成に向けて取り組まなければならない」という義務感から何かをするのではなく、「自分たちの仕事として、当たり前のことを当たり前にすることでSDGsの達成に貢献する」というレベルまで高めていきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。
- ※記事内のデータや組織名、役職などは、時点のものです。